大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)7244号 判決

原告 京三電線株式会社

右代表者 三村操

右代理人弁護士 三根谷実蔵

中村忠純

右復代理人弁護士 斎藤治

被告 吉菱商事株式会社

右代表者 吉富毅

被告 吉富毅

被告 吉富吉郎

右被告三名代理人弁護士 武田

主文

被告吉菱商事株式会社は原告に対し、金三十九万二千七百円と、これに対する昭和三十二年九月二十六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。

被告吉富吉郎は原告に対し、金三十九万二千七百円と、これに対する昭和三十一年十一月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。

原告の被告吉富毅に対する請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告と被告会社及び被告吉富吉郎との間においては原告に生じた費用の三分の二を被告会社及び被告吉富吉郎の連帯負担、その余を各自の負担とする。

この判決は、原告が、被告会社及び被告吉郎のため、各金十万円の担保を供することにより、仮に、執行することが出来る。

理由

第一の約束手形(甲第一号証)に関する原告主張の事実は、当事者間に争がない。

次に第二の約束手形(甲第二号証の一)につき被告吉富吉郎が振出人になつたことについては当事者に争があるから、この点について判断する。

甲第二号証の一には、振出人欄に「吉菱商事株式会社吉富毅」とあつて、右会社が振出したのか、吉富毅個人が振出したのか、必ずしもはつきりしない。

しかし、乙第二号証(被告吉富毅本人の供述によつて真正にできたと認められる)と、被告吉富毅、同吉富吉郎各本人の供述とを合せ、乙第一号証の一、二甲第二号証の一と対照して考えると、次のとおり認められる。

被告吉富毅は、昭和二十九年二月頃、かねて吉菱商事という商号でやつていた個人営業をもとにして被告吉菱商事株式会社を設立して、みずから代表取締役になつたが、その後は、乙第一号証の一に押してある印を右会社用として、乙第一号証の二に押してある印を被告吉富毅個人用として使い、取引銀行たる株式会社東京都民銀行銀座支店に対しても両者を区別して届け出ていた。本件第二の手形(甲第二号証の一の「吉菱商事株式会社吉富毅」なる記名の下に押してある印影は乙第一号証の一に押してある印影(右会社用に使つていたもの)と同じである。この被告会社用の印を押した被告会社名義の手形を、被告会社は、この前にも原告宛に振出したことがある。このように認められる。

また被告吉富吉郎、同吉富毅各本人の供述を合せ考えると、本件第二の手形(甲第二号証の一)は、本件第一の手形の支払のために、そして被告吉郎を手形債務者に加える(保証の趣旨で)ことを求められて振出したものであるが、被告吉富毅は、原告から被告吉富毅個人として手形債務者に加わることを求められたことも、みずから右手形に保証する意思を明らかにしたこともなく、被告吉富吉郎も、被告吉富毅から、同被告個人に代つて手形の振出行為をする権限を与えられたことも、その趣旨で第二の手形に被告吉富毅の氏名を書いたこともないことが認められこの認定に反する証人鈴木善一の証言は採用することが出来ない。

以上認定の事実によると、第二の手形(甲第二号証の一)のうち振出人「吉富商事株式会社吉富毅」名義の部分は、代表取締役なる記載こそ欠いているが、その下の印影と相まつて代表取締役吉富毅が右会社を代表して振出す趣旨を表わしており、少くとも原告は、この手形を受け取る際、その趣旨を知つていたと認めるのが相当である。したがつて第二の手形につき、被告吉富毅は振出人として義務を負うものでない。

原告が第二の手形を昭和三十一年十月三十一日、原告主張のとおり支払を求めるため呈示したが、支払を拒絶されたことは、当事者間に争いがない。

かような次第であるから、原告に対し、被告会社は、第一の手形金三十九万二千七百円と、これに対する本件訴状送達の翌日である昭和三十二年九月二十六日(記録上明らかである)から完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を、被告吉富吉郎は、第二の手形金三十九万二千七百円と、これに対する昭和三十一年十一月一日から完済に至るまで同一割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべく、この限度で原告の請求は正当であるが、原告の被告吉富毅に対する請求は失当であるといわなければならない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 新村義広)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例